バカ映画
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12月31日
続編物・シリーズ物は主役が交代してからが本番！ そう、「ロボコップ」は「3」から！ 「ベスト・キッド」は「4」から！ いやいやいやもちろん分かってます。 みなまで言うな。 確かにどう考えても間違ってます。 そりゃシリーズ途中で役者が交代するような映画にちゃんとしたものなどないですよ。 でも最近歳をとるにつれて、こう思うようになってきたんですよ。 ちゃんとしてればいいのか、と。 出来がよければいいのか、と。
私も残りの人生であと何本の映画を観るのか分からないですけど、 ここから先はどうせならば、 ただ出来がいいだけでどこにでもあるような映画はもう観たくない。 それより出来は悪くとも今までに観たこともないような映画を観たいのです。 そつなくまとまってる映画を100本見るくらいなら、 そつのある映画1本のほうがはるかにましです。 なぜそこまでこだわるかといえば、それはズバリ、財産だからです。 断言しておきますが、長い人生折につけ節目につけ「恋におちたシェイクスピア」 の話をするよりも「パンツの穴」の話をする機会の方が絶対に多いですよ。 そういった財産の数々、それだけが人が墓まで持っていける唯一のものですよ。
そういうわけで出来るだけそつのありそうな映画ばかりを選んで観たいのですが、 最近のハリウッドは何もかもがまるでパッケージングされたかのように適度にまとまってる映画ばかり。 かつてのそつ量産大国だったイタリアホラー界も香港アクション界も最近はどうにも元気がありません。 その上そつといえば邦画、邦画といえばそつといわれた日本映画だって、 最近はめっきり小奇麗になってしまいました。 まさか私の生きているうちに邦画がデートムービーとして普通に選ばれる日が来るなんて。 これではいったいどこにそつを求めればいいのでしょうか。
そこで主役の交代ですよ。 当たり前ですが、シリーズというものは降ろされたのではない限り、 基本的にまず元々の俳優にオファーがくるわけで、 それを断るということはそれなりの理由が存在するはずです。 例えばギャラの折り合いがつかないとか自分のイメージが固定されるのを嫌ったとか、 表向きの理由はいろいろあると思うんですが、 でもまあ結局ところ俺が出るまでもない作品に成り下がった、 というその点に尽きると思うんですよ。 この時点でそつがないはずないでしょう。
念のためにいっておきますが、007とかバットマンとかスーパーマンとか、 あと日本だと金田一耕助とかはもちろん違いますよ。 あれは歌舞伎みたいなもんで ちゃんと華やかな襲名披露までしてもらえます。 そんなんじゃなく、いつの間にか交代している。 誰にも知らせずに交代している。 そんな大人の事情満載の主役交代劇。 大人の事情によるものですから、当然有名なスターからよく知らない人への交代です。 例えば「トレマーズ4」だと｢1｣に出てたガンマニアの夫婦、 の離婚した旦那、のさらにその祖先が主役ですよ。 誰やねん。 ラストはこのオッサンが当時の手回し式機関銃を爆笑しながら乱射して終わりですよ。 でもこれはまだいい。 まだ映画でつながりがあるだけましです。 ｢ゴリラ2｣なんて主役はシュワルツェネッガー、の実際のスポーツジム友達ですよ。 ほんまに誰やねん。
あと大人の事情なので、他の出演者は何事もなかったかのような顔でシレッと接します。 ｢ハンニバル｣なんかもそうでしたね。 でもあれだけ賢いレクター博士が、あんな単純な入れ替わりにも気づかないのかと思うと、 なんか急激にバカに見えてきますよね。 あと主役じゃないけど、｢釣りバカ日誌｣のみち子さんも大人の事情による変更でしたが、 その後も何事もなかったかのように夫婦生活を送っているハマちゃんなんてどこが愛妻家なのか。 完全に偽りの愛情ですよ。 あと確か｢NANA｣も｢2｣で主役のどちらかが入れ替わったんですよね。 でも｢2｣のほうでもおそらく変わらぬ関係を誓い合ったりしただろうし、 完全に偽りの友情ぽいですよ。 さっきからどうも歯切れが悪いですが、いや、さすがに若い人向けのマンガが原作なんで、 私もよく知らないんですよ。 確かナナとかいう女の子とハチ公とかいわれる女の子が出てくる話なんですよね。 それでいくとおそらく他にも数字の一から五までそれぞれ名前に付く人たちとかもいて、 あとたぶんロクは犬なんでしょうね。
ほかにも大人の事情によるさまざまな変更点が。 劇的なスケールダウン ・ 根本的な設定の変更 ・ いったん終わった話の蒸し返し ・ 別に誰も知りたくなかったキャラクターの掘り下げ ・ いっそモンスター以外総入替などなど、 とにかく出来るだけお金はかけずに何とかしてシリーズのファンから最後の小銭を搾り取ろうとする根性剥き出しです。 そんな性根で作られる続編たちはまさにそつだらけの姿で人々を大いに笑かしてくれます。 私はそんな続編たちがどうかこれからも作られ続けることを願ってやみません。
しかし。 しかしですよ。 観るほうはそりゃいいですよ。 そつがあるとかないとか言ってれば。 でも出るほうはどうでしょうか。 新たにオファーが来た俳優のほうは。 確かにチャンスといえばチャンスです。 でもピンチといえば大ピンチですよ。 なぜなら途中で主役が交代する映画は数あれど、 交代してその後に売れた俳優はほぼいないからです。 それどころか主役が交代した直後にシリーズが打ち切られてしまうケースのほうがはるかに多い。 まあ、元の俳優が降りてしまうほどのひどい映画だから売れないのか、 または元々その程度の映画が持ち込まれる俳優だからなのかは分かりませんが、 どちらにせよ、まず売れないことは間違いないです。 例えばあなたは｢ロボコップ3｣に入ってた人の名前を知ってますか? ｢ホーム・アローン4｣に出てた子供は覚えてます? ｢ベスト・キッド4｣の主役が女の子だって知ってた? やっぱり狼だった僕のいとこの事は?
しかし売れないことがほぼ確実だからといって、 この役を断ればいいのか、というとそれもやはり出来ないでしょう。 無名の俳優にとっては到底見逃すことの出来ないチャンスだからです。 なんといっても誰しもが知ってるシリーズの主役ですよ。 ただ自分にオファーが来たのは、誰しものシリーズの記憶がちょうどあやふやになり始めるあたりの作品です。 たまにきちんと覚えている人がいても逆に周囲からうそつき呼ばわりされることもあるくらいの。 ｢あの動きの硬いロボットが空飛ぶねん！！｣ 「目の見えない地中生物が急に進化して目も見えて地上をノソノソ歩き出すねん！！｣ ｢高島政伸がやってた役がいつの間にか高島政宏になってるねん！！」 なかなか信じてもらいにくいレベルです。
しかし今まで誰も売れたことがないというのなら、 自分がその最初の一人になればいいのではないでしょうか。 主役なんだから自分次第でなんとかできるのでは。 ただその映画はいいかげんな製作態度、投げやりな脚本、 現場の誰一人これをヒットさせようと思って働いてない、そんな映画です。 下手をしたら、 この映画が自分の俳優としてのキャリアの最終到達地点になってしまう可能性だって大いにあります。 さあ、どうする。 取るのか!? その毒入りの杯を!? 出るのか!? 「実はディカプリオには生き別れの弟が……。 今明かされるもうひとつの愛、もうひとつのタイタニック」という「タイタニック2」に!? 「レプリカントを追っかけて宇宙は今、大・混・乱！！」 とかなんとか広川太一郎が宣伝しちゃったりする「ブレードランナー2」に!? 「インチキな大人に宣戦布告！！」とかキャッチコピーがつけられた「時計仕掛けのオレンジ2」に!?
一方で交代する前のほうに出ていた俳優はどうなんでしょうか。 こうしてみんなから笑いものになった続編を見て、その惨憺たる出来をあざ笑うのか。 自分がそれに出ずにすんだことに安堵して胸をなでおろすのか。 いや、それだけではないでしょう。 いくらビジネスライクなハリウッドスターといえどやはり人間です。 いままでずっと自分が出ていたシリーズです。 自分の出世作となったシリーズだって少なくないでしょう。 新人だった自分に一から教えてくれたスタッフだっていたはず。 そんな風にお世話になったスタッフに、 後ろ足で砂を掛けるようにして自分はこのシリーズから出て行った。 そして今そのシリーズがあまりの出来にみんなから笑われている。 そんなことを思うと、 一人まだ若かったころの撮影現場のスナップを片手にほろ苦い酒を飲む夜もあった…りしていると、 出てなかったつもりの続編で、 自分の出演シーンが回想場面として使われてて一緒になって笑われていることも結構あるので注意。