バカ映画
［98年］［99年］[00年］［01年］［02年］［03年］[04年][05年][06年][07年][08年][09年]
12月31日
時期はずれなのを百も承知で書きますが、 私もついに花粉症になってしまったようです。 今までの人生でまったくアレルギーというものとは無縁だったのに、 まさかこの年で突然なってしまうなんて。 なんでもアレルギーというのは年々体の中に少しずつ蓄積されていって、 そしてあるときそれが限界を超えると、 そのときから急に症状が出るようになってしまうそうなんですが、 これはなんと、奇しくもあのロメロの「ゾンビ」の中の「地獄が一杯になった時、 地上に死者が溢れる」とまったく同じ状況ではないですか。
しかし今の私には一杯になって溢れてきているものがもうひとつありまして、 それはズバリ、映画の記憶です。 私も今までの人生で結構な数の映画を観てきましたが、 それがついに限界点に達したのか、 とにかく映画を一本観たら一本分忘れる。 また一本観たら一本分忘れる。 いや、実際のところは一本分以上忘れてますよ。 最近私は記憶の話ばかりしているような気がしますが、 それが私にとって何より重要だからです。 もう映画の記憶があればあるほどいい。 そしてその記憶をひたすら積み上げていくことでこの一生を過ごしたい。 できることならこの世に存在するすべての映画の記憶をこの手に収めたいぐらいです。 しかし実際のところは観るそばから忘れていく。 もうこの世に存在するありとあらゆるものは砂上の楼閣ですよ。
ただ実際のところ完全に忘れてしまっているものはまだいいんです。 忘れていることも忘れてるからそれはもういい。 始末に悪いのが観たのか観てないのか分からない映画。 観ている間中この映画観たか観てないかが気になってしょうがなく、 しかし途中までまったく記憶になくて、 よし、これは観たことのない映画だった、 と安心するも、ラスト近くになって一箇所だけ記憶にあるところがでてきて絶望する。 もうこれの繰り返しですよ。
だいたいセガールの映画なんかほんとに観たか観てないか分からない。 しかも観終わったあとでもやっぱり観たことあったんだかどうだかもよく分からない。 全部で50本もないのだからどう考えてもある程度観てるはずなんだけどこれがぜんぜん分からない。 とりあえずどれ観ても結構な確率でセガールはマオカラーの服を着ているような気がするが。 ただセガールの映画は内容が同じなのもあるんだけど、 とにかく題名が同じようなのばかりでまぎらわしい。 「沈黙の戦艦」 「沈黙の要塞」 「沈黙の断崖」とか「DENGEKI 電撃」 「ICHIGEKI 一撃」 「弾突 DANTOTSU」とか。
こうやって同じような題名を連発するのは、 イメージを強めるためと、 それとあわよくば間違えて観てもらうつもりなんだろうけど、 はっきり言ってそのやり方は古い。 それはロードショー時代の方法論ですよ。 ここは一つ映画会社の人にはっきり言っておきたい。 今のこのレンタルビデオ時代では、「この前これ観て面白かったから、 今度はこれを観よう」と思うよりも、 「どれ観たか分からん。 どれも観るのやめよう」となる確率のほうがはるかに高いということを。
あとヴァン・ダムなんかもやっぱり同じような映画に出て同じような題名ばかり。 彼の場合はなんというか英単語の組み合わせみたいな題名が多いんですよ。 「ダブル・インパクト」 とか「ブルージーン・コップ」とか 「ハード・ターゲット」とか。 それにひきかえドルフ・ラングレンは最後が伸びるような題名が多いイメージ。 「パニッシャー」とか 「ディフェンダー」とか。 で、この2人が共演した映画が「ユニバーサル・ソルジャー」だった、 というのは非常に腑に落ちるようなこの世で一番どうでもいい話。
で、観たか観てないかここ20年近く私を悩ませている映画があるんですが、 それが「オーメン 最後の闘争」です。 これが本当に観たか観てないか分からない。 自分ではどう考えても観た記憶はないんですが、 しかしこの映画のストーリーが成人したダミアンとそれを阻止しようとする7人の修道僧との戦いだということは知っています。 で最後ダミアンが打ち負かされるのも知っている。 なにより恐ろしいのは、 この映画が「思ったよりも面白くない」ということさえ知っているということです。 なぜ観たはずのない映画の記憶が私の中にあるのか。 まさに造られた記憶ですよ。 ただストーリーに関しては映画の本か何かで読んだのかもしれない。 でも私の脳裏には断片的な映像の記憶があるのも確かです。 結構いい歳になったダミアン、 フードをかぶり円形に集まる7人の修道僧たち、 キラリと光る短剣など。 しかしこれも公開当時のチラシ等の図柄を覚えているだけなのかもしれない。 「思ったよりも面白くない」 というのもそれは観た人から聞かされた感想をただ覚えているだけではないのか。 いったいどこからどこまでが自分の本当の記憶なのか。 まあ、そんなこと言ってる間にさっさと観ろという話ですが。
しかし観たら観たでまた恐ろしいことも起こるんですよ。 というのも、先日テレビで「ゴーストバスターズ」がやってたのでロードショー以来25年以上ぶりに観たんですが、 なんとメンバーの中のメガネの奴(ハロルド・ライミス)の存在を完璧に忘れてたのです。 たしかにあんまりギャグもやんないし見せ場もないけど、 ストーリーを進める結構重要な立場なのに、 まったく覚えてなかった。 ビル・マーレーが最初の図書館のシーンで幽霊のドロドロを本になすりつけるとことか、 最後こちらに向かって飛んでくるアグリー・リトル・スパッド(この名前まで覚えてた) で終わるとかは覚えてるのに。 そして忘れてるだけならまだいいのですが、 私の中ではこの25年間ほどずっとゴーストバスターズはビル・マーレー、 ダン・エイクロイド、 途中で入ってくるバイトの黒人、 の3人組だったんですよ。 何より恐ろしいのが、 私の頭の中で再生される映像では、 ビルの屋上からマシュマロマンに向かって放たれるビームも3本だということです。 なんということか。
もうこんなに自分の好き勝手に改変してしまうようでは私家版もいいとこですよ。 私は今までこのページでちゃんと映画の話をしているつもりだったのですが、 実はずっと「西村版」の話をしていたのか。 恥ずかしい。 でも私以外の人だって、それぞれの思い入れなどに合わせてその記憶を作り変えてしまっているはず。 たとえば「淀川長冶版少年時代」 とか「今関あきよし版若草物語」なんか他の人の記憶と比べると相当違うはずですよ。 「雁屋哲版レミーのおいしいレストラン」とかもやっぱりかなり違うはず。 「木村一八版タクシードライバー」なんてもうまったく違いますよ。 そもそも完璧な記憶など存在しないのだから、 人の記憶の中にある映画なんて多かれ少なかれやっぱり私家版なのではないでしょうか。 そう考えるともうこの世は「スター・ウォーズ」や「ブレードランナー」なんて比べ物にならないほどのバージョン違いだらけですよ。
ただまあもうそれでいいような気もします。 私のこの「西村版ゴーストバスターズ」は25年以上にわたって普通に存在してきたのですが、 それはただ単に私がその間「ゴーストバスターズ」の話をすることがなかったからです。 自分の中だけであれば、どんな展開、 どんな設定だろうと何の問題もなく存在できます。 ゴーストバスターズが3人だろうと5人だろうと、 マシュマロマンがビバンダム君だろうと、 今度は間に合った「ミッドナイトクロス」だろうと何でもありです。 そしてどれだけ記憶が間違っていようと、 他人からその間違いを指摘されたり勘違いを笑われたりすることもありません。 そうやってそれぞれが自分の好きな映画をそれぞれの好きなような形で持っている。 もうそれでいいんじゃないんですかね。
…と言いたいところですが、ただ、まあ、やはりそういうわけにはいかないでしょうね。 なぜかというと、それはまあつまり、それが映画だから、 としか言いようがないですね。 ただフィルムに焼き付けられただけのものではなく。 ただ正確なデータベースで現されるようなものでもなく。 飲み会の片隅でしょうもない映画の話で盛り上がる時。 同世代同士で公開当時の騒ぎを振り返る時。 解釈の違いで夕日の土手で殴りあう時。 そして私がこうして駄文を書いて、それを読んでくれる人がいる時。 その時お互いの頭の中で同時に上映されるもの。 それがまあ、私の考える映画だからです。
そんなわけで、とにかく同じ重さの金ほど大切にしたいこの記憶というものですが、 いったいどうやったら忘れないようにすることが出来るでしょうか。 とりあえず空いているすべての時間で映画を観まくるというのはどうか。 いや、だからそれだとその分超高速回転で忘れていくだけだろ。 じゃあ、いちいちメモを取るというのはどうか。 いや、それだともう内容を忘れてしまった映画に対して「続・猿の惑星 コバルト爆弾・テレパシー」とかメモがあったって意味不明なだけだろ。 じゃあ、みょうがを食べないというのはどうか。 いや、もともと食べてないだろ。 そうか、結局今までとおなじように口を開けながらダラダラぼんやりと映画を観ていくしかないのか。 そうしてそれで忘れていくのならそれはそれで仕方がないか。 そして時がたつにつれ、 一本、また一本と映画の記憶を失っていき、 そしていつか私が「アイコ十六歳」の話しかしなくなる日が来たとしても、 どうぞこの「西村のページ」をよろしくお願いします。